先日、旅先の地方都市を歩いていたら、小さな古書店の前を偶然に通りかかって、その小さなショーウインドウに「今週のおすすめ」みたいな感じでこの本が飾られていた。とても懐かしくて譲ってもらった。
実は、この本そのものが懐かしいわけではなくて、この本の表紙のLe puyの礼拝堂には、学生の頃訪ねたことがあったからである。「ああ、こんなところに行ったんだった。」と。
当時はネットなんかもちろん無いから、ヨーロッパの建築の情報は極めて限られていて、大学の副教材だった「西洋建築図集」のなかに、数枚の小さくて印刷の荒い白黒写真を見ただけだった。けれど、それらの小さな数枚の写真に魅せられて、岩山に頂くこのフレンチロマネスク教会を訪れた。
この写真から素直に想像できるように、礼拝堂に到る階段はたいへん急で、息を上げながら登って行った。堂の前に着いたら、オープン時間を少し過ぎているのだけれど、入り口の扉は締まっている。どうしたものか、と考えていたら、下から、はあはあとの息遣いとともに、ピンク色のコートを着た少女が頬を赤くさせて上がってきた。下にある教会の牧師さんの娘さんで、鍵番だった。「お客さんがこんなに早く来るとは思ってなかった」なんて声をかけてくれて、扉の鍵を開けてくれた。「スケッチをしたいから30分くらい居たい」と伝えて堂内に入った。
礼拝堂のなかはほの暗く、目が慣れて初めていろいろと見えてくる。
黒いペンがインク切れしていて、鉄道旅行のガイドブック(トーマスクック)に赤入れする赤ペンしか持ち合わせてなかった。
1984年4月12日と記してあるから、もう40年も前のこと。